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書きかけ小話 

07 21 *2010 | ときメモ::書きかけ小話

短い話になりそうですが、すごい時間をかけて完成させるので、あまり期待しないで下さい。完成したところでオチと萌えが1mmもない日常小話です。二次創作として、萌えがないという時点で失敗作だと思うのですが、こういうのも書きたいから書いてみます。恋愛ものではありません(現時点では)。教師と生徒の交流ものです。重松清か^^ 途中で飽きたら恋愛方面に転換する場合もあります。
あと、さいきんあまりにも書けないから、習作の意味合いも持ちます。気が向けばおつきあいください。
 


すいか(1)
 


 夕暮れの商店街には熱気がある。狭い路地は買い物の人であふれかえっていた。日本の日常の風景とはいえ、美奈子にとってはめずらしい光景に、思わず目を奪われた。夏休みの開放感も手伝って、活気がみなぎるこの路地を見物しながら歩くことにした。
 ここに足を踏み入れたのは偶然だ。夏休みに着る服の買い物を済ませ、しかし、陽が長い夏の夕方のこと、家に帰るのはまだもったいないような気がして、いつものショッピング街を抜け目的もないまま散策した先にこの商店街があった。
 母親の手伝いでスーパーなどで買い物をすることは多いが、個人商店で買い物をするようなことは皆無だ。道の両脇に小さな店がならぶさまがおもしろく、美奈子はめずらしげにきょろきょろと周囲を見回した。急に濃くなった強い海の匂いのもとを探すと、魚屋があった。ガラスケースに並べられた魚の鱗が、オレンジの光に照らされて七宝でできた置物のように光っている。イカの体はつるつると濡れていて、死んではいるのだろうが、なにやら、まだ生気がまとわりついている。
 その向かいの店から芳ばしい匂いがしてきたと思えば肉屋だ。なにやら行列が出来ている。エプロン姿の女性はもちろんのこと、サラリーマン、部活帰りの中学生までもが並んでいる。店の軒先に立ったのぼりを見ると、どうやら、この商店街の名物である『はばたきコロッケ』がちょうどタイミングよく揚がった頃合いのようだ。並んだ人々の何割かは、代金を払うと同時にその場ですぐに揚げたてのコロッケに歯を立てている。それを見ていると、美奈子はかすかな空腹感をおぼえた。値段は1リッチ。そう高くはない。すぐに手を出せる値段だ。だが、これから家に帰れば母親が用意した夕食が待っている。それに――。
 高校に入学して3ヶ月。機会を失ってしまって、美奈子はまだどの部にも所属をしていない。中学生の頃に熱中したバレー部も、進学した先の高校にはなかった。ならば、どの部に入ろうかと逡巡しているうちに夏休みに入ってしまったというわけだ。運動をやめた体にとって、食前の揚げ物はよろしくないような気がする。ここは我慢をするべきだろう。
 美奈子は最大限に理性を発揮して肉屋の赤いひさしから目をそらした。そして気丈に前を向いた先に、八百屋の軒先があった。離れていても目に飛び込んでくるすずしげな深緑はキュウリだろうか。どうせ買うなら、健康によさげな野菜はどうだろう。美奈子は料理が嫌いではない。夏休みということもあるし、料理にかけられる時間もある。家族のためにサラダの材料でも買って帰れば、両親もよろこんでくれるだろう。そう思った美奈子は八百屋の前に立ち、野菜を物色しはじめた。
 夏の空気にさらされた素のままの野菜は、それぞれがみな、いきいきとしている。カゴの中に山盛りになって売られている野菜はどれも美味しそうで目移りをする。
 そのなかでひときわ目を引いたのが、店の特等席である、一番前面に並べられたつやづやしいスイカだった。転がり落ちないようにひと玉ずつ、カゴに載せられて売られている。
 そういえば、今年の夏はまだスイカを食べていない。買って帰って、お風呂上がりにでも食べたら、きっと美味しいに違いない。そう思って値段を見て、がっかりとした。5リッチだ。高い。スイカとしてはそう高くないのかも知れないけれど、高校生には、高い。だいたい、5リッチと言えば、今日のバーゲンセールで買ったキャミソールの値段とおなじだ。ひと夏着回せるキャミソールと、食べてしまえば終わりになってしまうスイカを比較すれば、キャミソールに軍配が上がる。
 あきらめてスイカの売り場を離れようとしたそのとき、美奈子の背中越しから聞き慣れた声が響いた。
「おじさん、このスイカ、一玉ください」
 それはつい先日、終業式でいったんその声を聞きおさめたはずの、担任若王子のものだった。


(つづく)

23:01 [Comment:0]

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