log

あなたのせなかのポラリス

10 02 *2020 | 未分類

またついったーでかきました。
事後です。事後注!


 くたくたにしめったコットンシーツの中で、これまたくたくたにしめった先生とわたしは、つながりがとけてもしばらくの間抱きしめあって、それからほどなくして、先生はお布団のまわりににちらばったあれこれを片付けはじめた。
 といっても、うつぶせに寝そべったままで、手に届く範囲のものだけを少し寄せる、といった程度のものなんだけど。
「あとですればいいのに」
 と、わたしが言うと、
「猫たちが帰ってきて、こういうもので遊びはじめると、なんだか気まずいじゃないですか?」
 と、先生は、小さな四角のアルミの抜け殻をつまんで言う。たしかに、四分の三ほど破り取られて反り返った部分なんて、まさに猫のかっこうのおもちゃだ。
「そうですけど……」
 わたしも手伝った方がいいんだろうか。でも、正直、疲れはてている。今日は先生がなんだかがんばってしまったせいで、なんとも気怠くてからだを起こすのも難儀だ。
 先生、えらいなぁ……。と、感心したのも束の間。先生は「やっぱり無理です」と言って、ぺたりとお布団に胸をつけて、うつぶせになってしまった。
 あ。先生の、背中。考えてみると、こんなふうにじっくり見るのははじめてかも。
 先生は、わたしのお腹も胸も、背中も、なにもかも、たぶん全部見たことがあると思うのだけど、わたしはいつも、先生の顔や、肩、腕くらいしか見ない。
 先生が、その『四角のそれ』をつけているときは「見ちゃダメです」と言われているからわたしはお布団にもぐって待っているだけだし、それに、はじまってしまっても、わたしはその間、ほとんど目を閉じているから、こうして先生をじっくりと見ることはほとんど、ないのだ。
「うう……。お水……」
 うつぶせのままへたりこんだ先生は、ちょっと可愛い。さっきまで、あんなにわたしを好き勝手、やさしく振り回していたのに、いまはまるで、無防備な少年のようだ。
 先生の背中にある、小さなほくろにすっと触れてみる。
 先生はなにも言わない。さらに、その左横。三センチのところにある少し大きめのほくろにむかって、すすす、と指の先を動かした。すると、先生は「ひゃっ」と小さな悲鳴をあげる。
 あかりさん、くすぐったいです、と情けない声で呼ばれて、それがなんだかおかしくて、さらに、上のほうにある、うなじの下のあたりにあるほくろに、つつつ、と指をはわせてみる。
「ん、……っ」
 頼りない、と、色っぽい、の間の声で、先生がためいきをつく。おもしろくて、そして、新鮮だ。
 わたしは、うなじのほくろにひとさし指の先を当てたままで言う。
「あのね、これがポラリスです」
「ポラリス? 北極星?」
「うん。先生のいちばん高いところにあるほくろだから」
「そうか、なるほど。さっきから、ほくろを辿ってるの?」
「はい、そうです」
「あかりさん、楽しい?」
 不思議そうに聞かれて、「楽しいです」と答える。
「じゃ、好きにしていいよ。くすぐったいけど、我慢します」
 くっくっ、と喉を鳴らして、先生が笑う。
 なんだか不意に、幸せすぎて泣きそうになる。
 こんなに無防備にわたしに背中を見せていいの? わたしをそんなに、信用してくれていいの? こんなに近くに置いてくれて、ほんとうに、わたしでいいの?
 ほくろを追う振りをして、そっと指先で、先生の背中に文字を書いた。
『だいすき』
 ありがとう、僕もです、もうこっちにおいで、って、ようやく半分からだを起こしてわたしのために片手を伸ばし、でもとろとろと眠そうに、だけど、この世でいちばん優しい声色で先生が言うから、わたしはやっぱり、泣きそうになる。

20:19