視線を感じて目をあけると、わたしよりも少し早く目覚めたらしい先生が、じぃっとこちらを見つめていた。
「やだ」
「え、第一声がそれ? 傷つきます」
そんなふうに言うけれど、先生は穏やかに笑っている。
「だって、寝顔、はずかしいもん」
そう言って頭からふとんをかぶろうとしたけれど、それは先生の右腕に阻止されてしまった。
「朝の挨拶はおはよう、でしょ?」
「あ……。おはよう、ございます……」
「おはよう。よくできました」
ぽんぽん、と、あたまのてっぺんを撫でられる。
先生の恋人になって、一年。昨日までは、先生にこうして撫でられるたびに、フクザツな心境におちいっていた。
以前は、先生に触れられているというだけで、ただ単純にうれしかった。だけど最近は、子ども扱いされているように思えて、なんとなくしゃくぜんとしなかったのだ。
でも今日は、前のように嬉しい。
なぜなら、先生は、ちっともわたしを子ども扱いなんかしていなかったということを、夕べ、身をもって知らされたからだ。
「からだ、平気?」
その問いかけに、全身がかぁっと熱くなる。
「たぶん、平気……」
そう言って身を起こそうとしたら、上半身になにもつけていないことに気づいた。
そっか、夕べ、あのまま……。
あわててもう一度ふとんにもぐりこんだわたしを見て、先生は『イソギンチャクみたいです』って言って笑っている。
笑う先生のあたまのてっぺんに、ぴょこんと寝癖がとびだしている。それを見て、わたしも笑う。これこそ、若王子先生のトレードマークだ。
むかし、わたしがまだ先生の生徒だったころ。先生にさわりたくて近づきたくて、さりげないふうをよそおって寝癖をかるく引っ張ったら「無造作ヘアです、流行です」なんてうそぶいていたっけ。
わたし、あのころから。
「先生と、こんなふうに、なりたかった……」
ハッ、と思ったときには、もう遅かった。
「僕も」
すこし艶っぽくそう言った先生の顔は、至近距離だ。
「わあぁ!」
思わず身を引いてしまったのも仕方がない。だって、だって。先生が夕べ、わたしにしたことときたら、ほんとにもう、すごかった。思い出しただけで熱が出そうだ。
「いくら僕だって、朝から君にそんな無理はさせませんよ」
のけぞったわたしを見て先生はそう言うけど、はたしてほんとにそうかなぁ。なんだか、その気に見えたけど。
疑わしげに先生を見つめると、先生は、目を見開いて「あ、疑ってる」と、憤慨している。
「でも、わたし」
「ん?」
「むり、できる、かも」
先生と一緒なら。
「君って人は」
呆れたように言うくせに、先生の両腕はもう、わたしを抱きよせはじめている。
「出会えて、よかった」
「わたしも、せんせい」
「今度は、優しくしますから」
先生の、あたまのてっぺんで寝癖がゆらゆら揺れている。
「はい」
うなずいて目を閉じたら、もう、なんにも見えなくなった。