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+++ Blue 【R18】

※ ちゅうい!

佐伯さんがほんとうにひどい扱いに…! いじめられてはいませんが、ものすごい不憫&『はやい』です。
先生もいいんだか悪いんだかどの時点でどうなのかよくわかんないですし、主人公さんもちょっと足りなそうなかんじです。
R18にはしましたが、教育上よろしくない設定なだけであり、あからさまなえろ表現はありません。ですが、おくちモノがダメな方はおやめになったほうがよろしいかと。

それでもよんでみる、とおっしゃるかたは、おきをつけておすすみください。


続き

■Blue■


種明かしをしてしまえば、頭脳コーヒーは単なるふつうのコーヒーだった。じゃあ、クリスマスプレゼントで偶然手に入れた頭脳コーヒー試飲券はなんだったのかというと、実は、ビーカーコーヒーを飲みながら、若王子先生の特別補習を受けることができる特典つきのチケットだったのだ。
一年三学期の期末考査、そしてつい先日終えた二年一学期の期末考査と、わたしは若王子先生の補習を独占したおかげで、二回連続学年主席のポジションにつくことができた。しかし、十枚綴りだったチケットには当然限りがあり、残念ながら今回で使い切ってしまった。だから、次回のテストからは、自力でがんばらくちゃいけない。それが当たり前のことだと思いつつも、一度知ってしまった若王子先生が特別に組んでくれた補習のカリキュラムの効率の良さは、ちょっとやそっとじゃ忘れられそうにない。

テストが終わった翌週、わたしは先生にお礼をしようと手作りのチョコレートケーキをかかえて化学準備室をおとずれた。
「若王子先生、ありがとうございました」
「や、わざわざこんなこと、してくれなくてもいいのに。なんたって頭脳コーヒーの試飲券は君の特権だったんだし。でも、とてもおいしそうだ。本当にいただいてもいいの?」
言葉では遠慮しながらも、わたしが手渡したケーキの箱をさっそく開けて、先生はとても嬉しそうにほほえんでくれた。
「先生のおかげで、いつもより断然いい成績がとれましたから、がんばっちゃいました。それにね」
「ん? それに?」
「先生だけには言っちゃいますけど、わたしね、実はテストの少し前から、佐伯くんとつきあい始めたんです。このケーキは佐伯くんに教えてもらいながら作ったの。先生にお礼をしたいっていう口実で、ケーキ作りを佐伯くんに教えてもらえちゃったから、これもある意味、先生にありがとうです」
わたしが言うと、先生は急に眉間にしわを作って、コホン、とひとつ、小さく咳払いをした。
「男女交際も結構だが、本分の勉強を忘れず、学生らしいつきあいをしたまえ。わかったかね?」
「え……? なに? せんせ……?」
唐突にはじまったお説教に、わたしは目を白黒させた。すると先生は急にくすくすと笑いはじめ、おどけた表情でわたしに言った。
「ね、咳払いと、『たまえ』ってところ、ちょっと先生っぽくなかったですか?」
「な、なーんだ、若王子先生らしくなくてびっくりしちゃった!」
わたしが言うと、先生は声をたてて愉快そうに笑った。
「はは、びっくりした? 先生大人だから、お説教だってしちゃうんです。でもね、節度をもった学生らしいおつきあいをして欲しいのは本当ですよ。夏休みは、危険がいっぱいです。さて、冗談はともかくとして、よかったらこのケーキ、君も一緒に食べていかない? コーヒー淹れますよ? どう?」

放課後の化学準備室にはコーヒーのよい香りが満ちていた。
「ところで先生、もうすぐ佐伯くんのお誕生日なんですけど、プレゼントなにあげればいいかなあ……。佐伯くん、水色が好きだから、水色のシャツとか……。ねぇ先生、男の子って洋服をもらって嬉しいものですか?」
切り分けたケーキを口に運びながらわたしがそうたずねると、先生がまた笑った。
「ハハハ。高校生の男の子が欲しいものなんてたったひとつしかないと思うんですけど」
「なに? なに先生! 教えてください!」
わたしが身を乗り出すと、先生はちょっとタンマです、と身を引きながらあとずさった。
「そんなに必死にならなくても、ちょっと考えればわかることですよ?」
「?」
「わからない?」
「わかりません」
「じゃあ、君には特別に教えてあげましょう。これはまぁ、いわば、頭脳コーヒーチケットのおまけです。ケーキももらったしね。でも、みんなにはナイショですよ」
そう言いながら、先生は印刷ミスをしたコピー用紙の裏に定規も使わず、適当に線を書き始めた。
そして、曲がった線がなさけない、手書きの5枚綴りのチケットらしきものをあっという間に作ってしまった。それには、『特別補習チケット』と書いてある。先生はそれを折りたたんで、わたしの手のひらのうえにのせた。
「佐伯くんの誕生日まで、あと1週間です。この券は一日につき、一枚使います。これからできるだけ放課後はここに来てください。佐伯くんが喜ぶプレゼントを、君に教えてあげましょう」
こそりと耳打ちをされて、わたしはふるりと身震いをした。
今この部屋にはわたしと先生のふたりしかいないのに、内緒話をするようにそんなことをされると、まるで重大な秘密を抱えたみたいでドキドキしてしまう。

***

先生が教えてくれた『高校生の男の子が欲しいもの』の正体を知ったときはかなり驚いたけれど、わたしは先生を信用して受けいれることにした。なんたってわたしを学年一位にまで導いてくれた先生の言うことなのだ。まちがいはないと思う。……たぶん。
先生に言わせると、わたしはけっこうスジがいいんだそうだ。もの覚えも早いし、手先も器用。でも、わたしに言わせると、先生の教え方がじょうずだったんだと思う。じゃないと、まったくの初心者だったわたしが、たった数日の補習で、ここまでできるようになるはずないと思う。チケットの五枚目を使うころには、自称我慢強いという先生ですら、ものの三分で音をあげるようになっていた。
佐伯くんの誕生日を前日に控えて、先生はわたしに言った。
「くれぐれも、学生の本分は忘れずに。彼がそれ以上をほしがっても、君は決して許しちゃいけない。学生同士で失敗すると、女の子のほうにはより深い傷がつくからね。万が一のときのために、僕は隣の化学室にいます。だから、安心して行っておいで」

***

七月十九日、放課後。化学準備室。佐伯くんの声がわたしのあたまの上から聞こえた。
「美奈子」
わたしは、先生のよりすこし粘度のたかい彼のものをのみほしながら、てっきりほめてもらえるものだと思って顔を上げた。すると、思いもかけず、頬に激しい衝撃を受けた。そしてその直後、熱いほどの痛みが走った。いっしゅん、なにが起ったかがわからなかった。数秒後、殴られたのだとわかった。
「な、に、さえき、く…」
わたしは椅子に座ったままの佐伯くんの両足のあいだから上半身を出して、呆然と彼を見つめた。
「お前がそんな女だなんて思わなかったよ!」
彼は肩をふるわせて怒りをあらわにしていた。
「なに、どうしたの? わたし、佐伯くんに喜んでもらおうと思って練習したのに…? あ、もしかして上手にできなかった? ね、もしそうならもう一度やらせて! 今度はちゃんとできると思うから」
わたしが言うと、佐伯くんはふたたび右手を振り上げた。
わたしはぎゅっと目をとじて、佐伯くんの足の間に向かって顔を伏せた。
そこには、さっきまでの雄々しいかたちをすっかり忘れたように、しょんぼりと悲しそうに床を向いているもうひとつの佐伯くんの姿があった。
それを見つめていると、なんだか無性に悲しい気持ちになってきた。どうしてだかよくわからないけれど、佐伯くんが怒っている。
「ごめんね、佐伯くん、ごめんね、ごめんね」
佐伯くんはあやまるわたしにその手を振りおろすことはなかった。そのかわり、邪険に突き飛ばし、そして、自分の制服をさっさと整えてしまうと、化学準備室の扉を乱暴に閉めて出て行ってしまった。

「小波さん、だいじょうぶ?」
佐伯くんと入れ替わるようにやってきたのだろう、わたしは先生に抱き起こされ、背中に腕を回された。そうやって先生に抱きしめられると、わたしはいよいよたまらなくなり、嗚咽をこぼした。
「せんせいに、あんなに教えてもらったのに、わたし、うまくできなかったみたいで、佐伯くんを怒らせちゃった……」
泣きじゃくるわたしの背中をあやすように撫でながら、先生はやさしい声で言った。
「だいじょうぶ。君は悪くないよ。ちゃんとできてたし、彼はちゃんと気持ち良かったはずです。証拠に三十秒ももたなかったでしょう?」
「でもやっぱりわたしが悪いの。先生、ごめんなさい。せっかく場所まで用意してもらったのに……」
「ううん、先生が、いや、僕が悪かったんです。彼は思ったより子どもだったんだね。それだけが僕の計算違いでした。ごめんね、君につらい思いをさせた。ここ、叩かれて痛かったでしょう? かわいそうに」
佐伯くんに殴られて赤くなった頬に、先生がそっとキスをしてくれた。
「先生……」
「君には佐伯くんなんかより、大人の男性のほうがいいのかもしれないね」
「大人の……?」
「そう。大人です。たとえば……。その、僕なんていいんじゃない?」
わたしが目を丸くして先生を見上げると、先生がほほえんだ。
「今ならお得ですよ。僕にしておくと、枚数無制限の頭脳コーヒーのチケットがオマケにつきます」
「……」
本気? じょうだん? たった今失恋したばかりのわたしに、この人はなにを言っているんだろう。わたしは思わず黙って先生を見つめた。先生はそのいっしゅんの沈黙を味方につけるかのごとく、たたみかけるように提案してきた。
「それに、ケーキ作りは教えてあげられないけど、僕は大人だからもっといろいろ、どんなことだって君に教えてあげられますよ?」
「……でも先生、節度をもったつきあいが望ましいんじゃなかったの?」
「それは学生同士でのお話です。君の相手が大人の僕だったら、なにも問題ないです。たとえばなにかあってもちゃんと責任をとってあげられるでしょう?」
悪びれもせず言いのけてしまった先生の言葉に、わたしの涙はまなうらの奥深く、ひっこんでしまった。わたしは小さな声で言った。
「……頭脳コーヒーのチケットのオマケに、先生をもらうのも、悪くないかも」
わたしの言葉に、先生が笑った。
「まったく、君にはかなわないなぁ。でもはじめはそれでもいいよ。じゃあ、とりあえず、コーヒー淹れてあげましょうか。飲むでしょう?」
化学準備室の窓から見上げた夏の空は、佐伯くんの好きそうな水色だった。でも、先生のシャツの色のほうが、ずっとずっと、濃い青だ。淡い水色なんて、かんたんに塗りつぶしてしまえるほどの。
 
 
 
 
 
【END】
 
 
 
2009/07/19
 

 
 

 
 
 
 
佐伯さんお誕生日おめでとう^^^

23:12