或る夜

 体を交わらせたそのあと、私たちは後の片付けもほっぽらかして、ほぼ裸に近い格好で薄い布団に身を寄せて横たわっていた。
(今、踏み込まれたら、逃げられませんね)
 口の中で言葉を溶かすようにしてひとりごち、ふと、深雪のほうを見ると、健やかな寝息をたてている。深雪は、愛しあったあとはいつも、死んだかとまごうほどの深い眠りにつく。覚えて日も浅いというのに、毎回、全力でぶつかってくるから疲労してしまうのだろう。
 ――今日が、最期かもしれない
 そのおそれが、この少女に先を急がせている。それが可哀想で、可哀想だと思うほどに愛しくて、私はいつも惜しむことなく、彼女がほしがるだけの愛を差しだす。
『先生、いつも私を甘やかしすぎ』
 私に押しつぶされながら、笑って愉楽をねだる少女が、しんそこ、可愛い。
 もっと、深く、気がふれるほどに、この少女が喜ぶまま、私を与えてやりたい。
 思う存分に抱きしめ、口づけ、耳の底に愛の言葉を届けてやる。未踏の雪のおもてのような肌に吸いついて、誰に誇示するでもない所有のしるしを散らしながら、足のあいだ、雫で水たまりのできたあたり、深雪が好む部分を、やんわり指ではじいてやる。
 すると、彼女の上半身が軽くけいれんして、細い腕がすがりつく場所を探すようにさまよいはじめるから、私は言葉で知らせてやるのだ。
「私は、ここですよ?」
 いよいよ、彼女は、泣き出し始める。
 ――先生、死んじゃう。先生、私を、殺して。
 彼女の中にあえかに見えかくれする『私に殺されたい』という、願い。それを見ると、私の腰の裏の辺りで、昏い欲望が目を覚ます。
「いいですよ。殺してあげます」
 いそいそと私をさし込み、しばらくまじわりの感触をたのしんだあと、体のまんなかをかき回すようにしてやると、彼女の黒い瞳孔が、一段大きくなる。暗闇への扉がひらいてゆくように。
(ここが、果てか?)
 それからはあっという間だ。深雪は体を固くして縮こまらせると、直後、一気に弛緩するような態度を見せた。それを見届けてから、私は幼い膣からそっと抜けだし、二、三、指さきでさすったあと、彼女の体の外に、自分を捨てる。
「……死ぬかと……思った……」
 肩で息をしながら深雪は目を閉じる。汗で額にはりついた髪を一筋づつ、ゆっくりとどかしてやりながら、私は彼女に向かってささやく。
「……死にたいのですか?」
 その言葉は彼女に届いたのかどうか。次の瞬間、深雪はもう、眠っていた。子どものような寝つきの早さに苦笑しながら、そっと自分のふところにおさめる。
 そして、私も目を閉じる。



2010/02/14